ヘッドコーチの親父、背番号1の息子、共に歩んだ1年間の軌跡

とにかく不器用な息子。
4年生からピッチャーをやってはいたが、球が遅い。
コントロールはいいけど、とにかく球が遅い。
息子の同学年には球が速いピッチャーが2人いた。
でもうちの監督は「ストライクを投げられるピッチャー」が好きなタイプ。
なんとなく予感はしていた。
背番号1は、きっと息子になる。
コーチ陣で背番号の話し合いをした際、
背番号1については監督に一任した。
俺の私情で息子が背番号1を渡されたなんて思われたくなかった。
最終的に監督の判断で背番号1は息子に決まった。
背番号が渡される日、ずっと欲しかった背番号1をもらった息子の顔は今でも忘れられない。
「背番号1」という重い責任
背番号1をもらってからの1年間、
息子の背中にはずっと「責任」という言葉が貼りついていた気がする。
コントロールがよく球が遅いのでまあよく打たれる。
色々工夫はしたがやはり打たれることが多かった。
それでも息子は、どんな状況でも逃げなかった。
マウンドに立つ姿を見ながら、
「ピッチャーってのは孤独なポジションだな」と何度も思った。
エラーが出ても、打たれても、
最後に矢面に立つのはいつも背番号1。
当然責めるような大人もチームメイトもいなかったが
息子は1人責任を感じていたと思う。
それでも逃げずに投げ続けたこと。
俺は誇りに思う。
そしてもう一つ、
俺にも背番号がある。29番。
ヘッドコーチとして、チームを支える立場。
チームを勝たせてあげる立場。
息子が背負うのは「エース」としての責任。
俺が背負うのは「ヘッドコーチ」としての責任。
どちらも重く、どちらも簡単じゃない。
息子がマウンドで孤独と戦っているように、
俺もベンチで葛藤と戦ってきた。
声をかけたい気持ちを抑えて、
冷静にチーム全体を見なければいけない。
「父」として寄り添いたい自分と、
「指導者」として突き放さなければいけない自分。
この1年は、俺にとっても試練だった。
息子の成長
球が遅い息子は、当然打たれることも多かった。
ピッチャーをしていれば、それは避けられない。
ただ、試合を壊すような四球を出さなかったこと。
どんなに打たれても、ストライクを投げ続けた。
逃げずに、向かっていった。
でも、チームは守備が雑でエラーが多い。(息子も含めて)
ピッチャーとしては一番つらい環境だったと思う。
最初のころは、エラーが出るたびにあからさまに肩を落とし、
目をそらして、無言でマウンドを下りることもあった。
その態度を、監督にも俺にも何度も叱られた。
「マウンドに立つ人間が一番に顔を下げるな。チーム全体が沈むぞ。」
あの頃はまだ、結果しか見えていなかった。
“仲間と戦う”という意味を理解していなかった。
でも今は違う。
エラーした仲間に笑顔で声をかけるようになった。
がっかりはするけど態度には出さないように頑張っているらしい。
本当の意味で、チームのエースになったと思う。
勝っても負けても、表情がぶれなくなった。
試合中にミスが出ても、ピンチの場面でも、
一歩も引かない姿勢。
それが何より嬉しい。
俺はヘッドコーチとして、息子を特別扱いすることだけは絶対に避けてきた。
褒めるのは監督や他のコーチに任せて、
俺は常に“普通の選手”として見てきた。
でも心の中では、誰よりも誇りに思っている。
「コントロールの良さ」は“心の強さ”そのもの。
俺はいつも内心ドキドキしながら見ていたが、
息子の方がよっぽど強い心を持っていた。
残りわずかな息子と歩む少年野球の時間
気づけば、もう最後の大会が近づいてきた。
まだ卒団式は少し先だけど、
最近は練習を見ていても、
子どもたちの何気ない姿に胸が詰まる瞬間が増えた。
キャッチボールの合間に笑ってる声。
ベンチ裏でふざけ合う声。
1年前までは幼かった子たちが、
今は自分たちで試合を作れるようになっている。
俺も息子も、このチームで過ごすのはあと数週間。
「もうすぐ終わるんだな」って考えるだけで、
胸の奥が熱くなる。
ヘッドコーチとして、息子と同じユニフォームを着て戦えたこの1年。
本当に苦しくて、でも本当に楽しかった。
親としての誇りと、指導者としての責任。
両方を同時に感じられる時間なんて、人生でそう多くない。
背番号1という重い責任を背負った息子。
その姿を見守るヘッドコーチの親父。
この1年は、俺にとっても息子にとっても、
“勝ち負け以上の意味”があった。
残りわずかな時間、
最後の1球まで、全員で笑って終われるように。
それだけを願って、あと少し、グラウンドに立ち続けたい。
グラウンドから綴る Written on the Field

鬼コーチ
子どもたちには厳しいけれど、本気で成長を願っている「鬼コーチ」です。 怒るのは、技術じゃなく“心”の部分。 教えているつもりが、いつも子どもたちに教えられています。
-
バッティングで一番大事なのは“タイミング”。理屈より、動から動。
記事がありません